vol.14 奄美の八月踊り
“Amami”はイタリア語で「私を愛して」という意味。
そう、奄美には愛さずにはいられない魅力が溢れています。
自然、食、人etc.、愛すべき奄美の魅力を島人の目線でお届けします。
秋になればお月見の季節。秋は空気が澄んでいて月がきれいに見えるからこの季節にお月見をするのだと言われたりしますが、春の月も、夏の月も、冬の月だってそれぞれに美しいものです。
それなのに秋にだけとりたてて月を愛でるのは、美しさだけではなく、実りの季節に五穀豊穣を祈り感謝する意味合いがあるようですね。
奄美でもこの時期、豊年豊作を祝い、来たる年の豊作を祈願する伝統行事があります。
八月踊りと総称されるこの行事は旧暦8月の最初の丙の日に「アラセツ」、その7日後に「シバサシ」が行われます。もうひとつ、「ドゥンガ」という行事があり、これを含めて「ミハチガツ」と呼んだりしますが、現在ドゥンガはほとんど行われなくなっています。
唄って踊る伝統は、全国各地にあると思いますが、奄美の八月踊りの種類の多さには驚かされます。
私の住んでいる集落でも、分かっているだけで23曲の唄があり、それぞれに違う踊りが踊られます。伴奏はなくハト(指笛)が吹かれて、チヂンと呼ばれる太鼓がリズムを打ち鳴らし夜の集落に響くのはこの季節の風物詩です。
唄はそれぞれに固有の歌詞がありますが、それは曲の序盤だけで、中盤以降はどの唄でも共通の歌詞で唄われます。共通歌詞と言われるこの歌詞は、基本的に8、8、8、6のリズムでつづられた言葉です。
例えばこちら。
「今日(きゅう)ぬ慶(ほこ)らしゃや いつよりも勝(まさ)り いつもこの如(ごと)に あらしたぼれ」
共通歌詞の中でもよく唄われるおめでたい歌詞です。
この共通歌詞、私の住む集落の歌詞集に載っているものだけでも65種類。載っていないものもあるので一体何種類あるのやら。その中からどの歌詞を唄うかはその時によって違って、次にどの歌詞が来るのかわからない、という即興性!
むかしは共通歌詞どころか、その場で作って唄っていたそうですよ。
どうです?唄が生きている感じがしませんか?
ではどうやって唄っているのか。そのカギとなるのが唄をリードするウチダシ(打ち出し)と呼ばれる存在です。
八月踊りは男女の掛け合いで唄われますが、男女それぞれ1人ずつウチダシがいて、共通歌詞の中から次に唄う歌詞を選んで唄い出し(これを「打ち出す」といいます)、皆はそれに続きます。
共通歌詞はペアになっているものも多く、1つの歌詞が唄われたら次に来るのはこの歌詞、という暗黙の了解があります。
相手が唄った唄のアンサーソングを出せるかどうか、そこがちょっとした勝負!返しの唄ではなくても、前の歌詞の下の句にある言葉が上の句に入った唄を出したり、相手が返しにくいような唄を出したり、仕掛けあいです。このやり取りがおもしろい。唄は後半にかけてどんどんスピードアップ。相手が唄っているところにガンガンかぶせて盛り上がり、「トーザイ!」の掛け声がかかってようやく終わります。
共通歌詞は八月踊りに限らずシマ唄でもよく使われるので、これがわかると奄美の文化への理解がもっともっと深まりますよ。
というわけで、これからも共通歌詞を少しずつ紹介していこうと思います。
今回はお月見の季節なので、月の美しい歌詞を。
「お十五夜(じょごや)ぬお月 神清(かみぎょ)らさ照りゅり 加那(かな)が門(じょ)に佇(た)てぃば 曇(くも)てぃたぼれ」
十五夜のお月さまは神々しいほどに美しい。でも、恋人の家の門にいるときには、どうぞ曇ってください。
なんとも美しくほほえましい情景。
そうよねえ。人に見られたら邪魔されたり冷やかされたりするものね。煌々と照らされちゃうとまずいよねえ。
と、ついついからかいたくなっちゃいます。
でも、恋人の部屋で寄り添ったら、きっとお月さまが見えたほうがロマンチックで良いですよね。
奄美の唄は恋の唄が多い!男女の掛け合いが影響してそうですね。男女のあれこれを暗喩する歌詞もたくさんあっておもしろいですよ。
でも、長くなるのでこれはまた次回以降に。
【プロフィール】渋谷陽子
宮城県出身。2011年6月に奄美へ。
現在笠利町で夫と共にパッションフルーツ農園を営んでいる。
音楽、伝統行事、古くからの習俗、和服が大好きなオカリナ奏者兼業農家。
まるか農園 「まるかの明日」
https://amantropico.amamin.jp/
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