vol. 3 秋のおとずれ

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“Amami”はイタリア語で「私を愛して」という意味。
そう、奄美には愛さずにはいられない魅力が溢れています。
自然、食、人etc.、愛すべき奄美の魅力を島人の目線でお届けします。

 

「ピックィーッ」

奄美の山々に、今年も甲高い鳥の声が響き始めました。
秋のおとずれを告げる「サシバ」の鳴き声です。

「ミーニシ(新しい北風)がふけば、サシバが飛来する」

南から吹いていた季節風が、北からの風にかわる寒露の頃(10月8日前後)、その風を利用してやってくるサシバのことを、
奄美の人々は季節を知るための言い伝えとして語り継いできました。

タカ科の仲間であるサシバは、春から夏にかけて日本本土で子育てをしたあと、秋になると奄美群島へ南下し、一休みの
のち、越冬地の東南アジアへ向かう渡り鳥です。
なかには奄美に残り、そのまま春を待つものも。

じつは環境省のレッドリストで絶滅危惧種II類に分類されるサシバ。
爬虫類をはじめ、あらゆる小動物を食べるサシバが奄美にやってくるということは、奄美がそれだけ自然が豊かな場所だ
ということです。

奄美の自然を求めてやってくる生き物は他にもいます。

海からやって来るのは回遊魚の「シイラ」。
奄美での呼び名は「ヒュー」。

ヒューは、惣菜の魚(フライなど)でお馴染みの魚ですが、秋には脂がのって刺身も美味しくなるそうで、
「ピーちばヒュー」(サシバが鳴くころ、シイラがとれる)
なんて言い伝えが奄美にはあります。

この頃から、海は真夜中に干潮を迎えることが多くなり、島人は潮の引いたリーフでタコや貝、魚を捕る「いざり」に出
掛け、満月の晩にはイカ釣りで秋冬の味覚を楽しむようになります。

冬には、繁殖や子育てのために北の海から南下してきた、ザトウクジラの姿を見ることも。
最近では、観光客向けに「ホエールウォッチング」を企画運営しているショップもあるようです。

野山では、そんな渡り鳥や回遊魚たちを「いらっしゃい」と歓迎するかのように、次々と花を咲かせる「サキシマフヨウ」。
奄美に古くから自生しているハイビスカスの仲間です。

朝に咲くと夕方にはしぼんでしまう1日花のサキシマフヨウ。
北風のなか、可憐にゆれている淡いピンクの大輪花は、「ハイビスカス」の名前で親しまれている華やかな「ブッソウゲ」よりも、控えめな感じが奄美らしくて私は好きです。


※ブッソウゲの花。「ハイビスカス」は、本来はフヨウ属の学名の総称です。

生き物たちは、冬のあいだ奄美でたっぷりと休養したあと、春にはまた、それぞれの過ごしやすい場所へと旅立っていきます。
そして、今度は初夏を告げる鳥「アカショウビン」がやって来るのです。

「またいらっしゃい」と旅人たちを送り出し、新しい客人を迎えるかのように移り変わる、奄美の四季。

深まる秋から冬への変わり目を、森へ海へと出掛けるのも、自然豊かな奄美ならでは楽しみかたです。


【プロフィール】トウコ
関西出身。縁あって奄美で結婚。転勤族の夫と供に奄美群島各地を回り、2015年奄美大島に落ち着く。奄美の島々を回るうち、各地の風土・風習・歴史の違いに強く惹かれ、大好きな絵や文を通じて、その魅力を発信していきたいと思うようになる。